計測器・測定器玉手箱
コモンモードとノーマルモード
コモンモードとノーマルモード
測定の精度や信頼性は、使用する測定器で決まるわけではありません。
測定に係わるシステム全ての要素が測定値の不確かさを左右します。
中でも、機器の接続法とノイズは測定に大きな影響を与えます。
ここでは、信号やノイズが測定器に加わる形態について考えます。
測定器の入力端子は、多くの場合BNCコネクタかポスト端子です。
電極としては2つの電極です。
そして、測定信号をこの電極間に加えます。
このときの入力形態は「ノーマルモード」と呼ばれます。
いわば当たり前のモードです。
ところが、実際には測定器に対する信号の加わり方として、もう一つのモードが考えられます。
下の図のように、測定器のコールド側(グラウンド)と、測定器とは別の基準電位との間に加わる場合です。
この形態での信号の加わり方を「コモンモード」と呼びます。
コモンモードの信号は、多くの場合測定には有害な信号、つまりノイズです。
例えば、静電気を帯びた測定者が測定器のケースに触れて、小さな火花が飛ぶようなとき、火花によるノイズはコモンモードで測定器に加わります。
右の図で、ZGは測定器入力のグラウンドとコモンモードで加わる信号のグラウンドとの間に存在するインピーダンスを表しています。
コモンモードは、測定器の二つの端子に対して同時にかつ同じように加わります。
二つの端子の絶対的な電位は変化しても、二つの端子間の電圧は変わりません。
計測器の入力は、二つの端子間に加わる信号(ノーマルモード信号)に対して応答するはずですから、測定器はコモンモードには無関係のように見えます
ところが残念なことに、実際はコモンモードの信号が出力に現れてしまいます。
下の図は、測定器の入力部分(二つの電極)で、入力インピーダンスと接地抵抗を考慮したときのコモンモード信号(Vcom)に対する回路です。
図で、測定器の入力(Vin)は、コモンモード信号(Vcom)が抵抗で分圧された点の電位差ですから、図の下にある式で表わすことができます。
いま、測定器の入力が接地されたBNC端子のようなシングルエンド入力だとすると、式のr2は0になります。
すると、Vcomがr1とr3で分圧されたものが入力に加わることになります。
これはノーマルモードで加わるのとほとんど変わりません。(右の項に1が残るだけ)
したがって、シングルエンド入力はコモンモードで侵入するノイズには弱い回路であると言えます。
では、コモンモード信号が測定に影響しないようにするにはどうすればよいのでしょうか。
上の式で、Vinをゼロにする第一の方法は、r1をr3より(r2をr4より)、極めて大きくすることです。
つまり、測定器の入力インピーダンスは大きい方が良いと言えます。
シングルエンド入力では重要なポイントです。
第二の方法は、r3とr4を0にすることです。
これは、初めに述べたZGを0にするということですが、実際にはグラウンド配線のインピーダンス等がZGになるので、完全に0にすることは難しいことです。
上の式で、Vinを0にする三つ目の手段は、式のカッコ内の二つの項を等しくすることです。
これは、信号源が接続された状態で、二つの入力端子各々のグラウンドに対するインピーダンス(入力インピーダンスと信号源インピーダンスの合成値)を等しくすることに相当します
それを実現したのが差動入力(バランス入力)です。
したがって、差動入力はコモンモード雑音に強い回路であると言えます。
そしてその強さは、二つの入力のインピーダンスの等しさに比例する事が解ります。
コモンモードで侵入する雑音に対して信頼性の高い測定を行うために、測定に際しては、これらの点に留意して接続等を行うよう心がけてください。