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自動制御とPID

自動制御とPID

各種の工場や化学プラントでは、温度や圧力、流量や液面のレベルなどが自動制御によって精密にコントロールされています。


計測と制御は切っても切れない関係にあります。
温度、圧力、回転数、あるいは電圧や電流といった制御対象の物理量が今どのくらいなかを測定しなければ、制御しようにも制御のしようがないからです。
クルマのエンジン制御(燃料噴射など)や安定化電源などの電子回路も自動制御応用の一種ですが、ここでは各種の工場や化学プラントで温度や圧力、あるいは流量や液面のレベルなどの自動制御に用いる手法を概観します。

石油化学や鉄鋼などのいわゆるプロセス産業における生産設備の制御は「プロセス制御(Process Control)」と呼ばれます。
ちなみに、自動制御における制御とは「ある目的に適合するように、対象になっているものに所要の操作を加えること(JIS)」を言います。
プロセス制御は主に大規模な化学反応プロセスを制御するもので、成果物の組成を狙いどおりにするために原材料の投入量や炉の温度などを調節するものです。
同様に、外気温の変化など外部要因の変化(外乱)に対して品質を一定に保つことも制御の大きな目的です。


図1は、ガスを使った炉で原料を加熱するプロセスを人間が制御する様子を模式化したものです。
炉の出口の温度が予め定められた目標温度になるようにガスのバルブを調節します。

温度計を見て目標値より低ければバルブを開け、高ければバルブを閉める方向に回すわけです。
こうした作業は人間であれば比較的簡単にできます。
そして、この一連の作業を機械に置き換えるのが自動制御です。
ですが、置き換えは容易くはありません。

図1:加熱炉のマニュアル制御

図1では人が(目と頭と手で)行う作業を書き入れてあります。
目標値と検出温度を比較し、その結果から操作を決定しています。
検出は測定器でできますから、自動制御システムは比較して操作に反映させる部分を機械に置き換えればよいわけです。

図2はこれを整理して一般化したものです。
人が行っていた部分を「制御器」として置き換えてあります。
図2で特長的なのは全体がひとつのループを成している点にあります。
これは電気回路で言う負帰還と同じです。
制御の世界ではフィードバック制御と言います。
炉の温度制御であれば出口温度が制御量、バルブの開閉量が操作量です。
制御量は熱電対などの温度計で検出され調節計にフィードバックされます。

図2:フィードバック制御

制御器には目標値と制御量の差が制御誤差として入力されます。
具体的には目標値と制御量の比較と制御器の役割を果たすアイテムが図3に示したような「調節計」の形で供給されています。

ただし、フィードバックによるプロセス制御と電気系の負帰還回路とでは時間スケールが大きく異なります。
例えば、電子回路で100kHzの信号に180度の位相遅れがあるとすると、入出力の時間遅れは5μsです。
これに対して、プロセス制御では応答に数分~数時間を要するものが珍しくありません。

身近な例で言うと、お湯を沸かしてコーヒーを入れる際、お湯が沸くには10分くらいかかりますが、飲んでみて初めて熱かったり冷たかったりが分かる、つまり制御誤差検出までに10分かかります。
負帰還回路とフィードバック制御では時間スケールが6~9桁も違うわけです。
このため、遅い応答をいかにして短時間で目標値に持って行くかがプロセス制御の大きなポイントになります。

図3:様々な調節計 (写真は横河電機およびオムロン製)

目標値と制御量の比較結果が調節計によって操作量に反映(変換)されるわけですが、問題はこの変換過程にあります。
まず、操作の方法ですが、スイッチをオンオフするように2種類しか操作の無い「オンオフ制御」と、操作量がアナログ的に連続している「連続制御」があります。
安価な電気こたつの温度制御などもオンオフ制御のひとつです。
オンオフ制御はシンプルでよく使われますが、図4に示したようにどうしても制御量が波を打ってしまうという問題があるため、精密な制御には向きません。

図4:オンオフ制御

より精密な制御を行うためには、操作量をアナログ的な連続量にします。
先のバルブ開閉で言えば、全開と全閉の2種ではなく、開ける量を連続的に変えられるようにします。
電気的に制御するシステムではPWM(パルス幅変調)などとすることもあります。
この場合、瞬間的には2値制御ですが平均化された量が制御に反映されるので連続制御です。
また、ここで言うアナログ的というのは、制御を連続量として扱うという意味であって、システムや調節計をアナログ回路で構成するということではありません。
実際、現在では多くがデジタル処理されています。

次は、制御誤差をどの程度の量で、どの程度の速さで操作に反映させるかです。
実はこれが一番の問題となります。
マニュアル制御の場合にも、人には、性急な人、おっとりした人、神経質な人、大雑把な人がおり、それぞれの調節の仕方は異なり、結果としてプロセスの特性が変わります。
同様に、調節計の設定次第でプロセスの応答性や安定度は大きく変わるからです。
プロセス制御ではこの問題解決に多くの場合「PID」と呼ばれる制御手法を用います。
PIDという名は、P(Proportional)とI(Integral)とD(Derivative)と呼ばれる3種の制御動作(Action)を組み合わせて使うことからきています。


最初の、P動作は「比例動作」とも呼ばれ、フィードバックによる制御の基本になるものです。
P動作は目標値と制御値の誤差の大きさに比例した操作量を与えます。
その結果、制御量と操作量の時間推移は<図5>のように、ゆっくりと誤差が小さくなってゆき定常値に落ち着きます。

ただし、P動作の制御の場合、<図5>で示したように定常値は目標値とは一致しません。
オフセットと呼ばれる一定の誤差分が最後まで残るという問題があります。
例えば温度を上げる場合は、温度を目標値まで上げきらず、下げる場合は下げきらずに定常に達してしまいます。
固定した誤差であるなら初めから差し引けば(あるいは加えておけば)良いように思えますが、オフセットは目標値などによって量が異なるため、うまくいきません。

図5:P制御

また、オフセット量は、誤差に対する操作量の割合(調節ゲイン)を上げれば小さくすることができますが、ゲインを高くすると図6のように制御量の応答が次第に振動的になり、制御が定まらない「ハンチング」現象を起こすので、あまり高くできません。
なお、ハンチングは、電気回路で言えば負帰還回路の発振に相当します。
位相が反転して帰還すべきところがループでの位相回転が大きくなり、ループ一巡で位相周り360度/利得1という発振条件に達することで起こります。

さらに、ハンチングには至らずとも、帰還の具合によって大きなオーバシュートを生じたり制定までに帰って長い時間を要してしますこともあると言う点でも、負帰還回路と同じ問題を含んでいます。
温度制御で言えば、オーバシュートは急加熱と過熱を意味するわけですから、プロセスに重大な影響を与えます。

図6:P制御のゲインとオフセットの関係

制御ではオフセットが残るので、これを打ち消すことを考えたのが「I動作」です。
Iの動作は積分(Integral)です。
制御誤差を積分した値をP制御に加えることで最終的にP制御のオフセットをゼロにします。
したがって、I動作だけというシステムは存在せず、PとIを組み合わせた「PI制御」の形で用いられます(図7)。

PI制御は精度の高いプロセス制御手法であり、実際にも多くの場所で使われています。
しかしながら、制御の源がP操作では[現在の誤差]、I操作では積分ですから[過去から現在までの誤差の集積]を基にしています。

言い換えれば、いざ「事」が起こってから対策を練っているわけです。
したがって、制御の応答スピードはどうしても遅くなります。
温度制御などでは元々制御対象の応答が遅いので、制御が落ち着くまでにより長い時間を要することになります。

図7:誤差の積分とPI制御

そこで、応答性を高めるために誤差の変化量をとらえて操作量に加えるのがD動作です。
D制御のDはDerivative、即ち導関数のことです。

言い換えると、I動作は誤差の積分でしたが、D制御は誤差の微分値を加えるものです。
PI制御にD制御を加えてPID制御にすることで、例えば外気温の急激な変化などの外乱に対しても応答性が高まります。

図8にPID調節計の概念、図9に外乱に対するPID制御の応答とPIDの各操作量の変化の様子を示しました。

図8:PID調節計
図9:外乱に対するPID制御の応答

PIDによるフィードバック制御を使えば原理的にプロセスを自在に制御できます。
ただし、実際のプロセスではPIDの各操作成分をどの割合で加え合わせるかで特性は大きく異なります。

例えば、Pを大きくすると振動的になりますし、Iでは積分時間(範囲)の違いが特性に大きく影響します。
また、Dを強めればノイズなどの外乱に過敏に反応しすぎてしまうといったことが起こります。
したがって、PID動作の各パラメータを最適化することが求められますが、残念ながら最適値は制御対象毎に異なるので、システムに合わせてチューニングする必要があります。

この場合、電気回路であれば、測定器の指示を見ながら回路定数を合わせ込むといったことができます。
ところが、プロセスでは応答時間が長いので、パラメータを少しづつ変えて試行を繰り返すといったことができません。
しかも、複数のパラメータが関連し合って特性が決まるため最適値は単純には決まりません。

これに対して最近の調節計ではオートチューニング機能を搭載し、パラメータを自動設定できるものが多くなり、チューニング作業は大きく軽減されています。
なお、制御温度の変更など目標値を変えた場合の応答性と外乱が加わった場合の応答性は同じではありません。
そのため、制御対象の測定値と目標値とのPID各動作の効き方が異なるように工夫した方法などもよく使われています。


最後に、PIDは、制御の世界では「古典制御」に分類されます。

これに対して「現代制御」と呼ばれる一群の制御法があるのですが、古典と現代とは単なる名称のうえの違いであって、PIDが「今や使い物にならない」という意味ではありません。

半導体製造など最先端プロセスでも圧倒的に使用例の多い現役の制御手法です。
この辺りはニュートンの力学を古典力学と呼ぶのと似ていると言えるかもしれません。

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