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インピーダンスの計測と計測器 (その3)

インピーダンスの計測と計測器 (その3)

インピーダンスを正確に計測するためには、計測対象や条件毎に最適な計測法と計測器を選択する必要があります。
部品や回路のインピーダンス計測では、計測する周波数や計測電圧などの条件毎にふさわしい計測器が異なります。
インピーダンスの計測と計測器 (その1)
インピーダンスの計測と計測器 (その2)


では、なぜ計測対象によって、計測周波数や計測電圧などの条件を変えなければならないのでしょうか。
もし、計測対象が、理想的なLCR(インダクタ・コンデンサ・抵抗)であれば、特定の周波数におけるインピーダンス(抵抗やコンデンサの値)が分かれば十分です。
別の周波数におけるインピーダンスは計算で求めることができるからです。
また、計測する電圧などによってインピーダンスの計測値が変わることもありません。


ところが、実際の部品や回路では、外見上は単体の部品などであっても、LCRが複雑に絡み合った回路と等価な複雑なインピーダンス特性を持っているのが普通です。
このため、例えば、1kHzにおけるインピーダンスを計測して、その値から計算した1MHzにおけるインピーダンスと、実際に1MHzにおけるインピーダンスとでは値が大きく異なるのが普通です。
従って、LCRメータなどを使って計測する場合は、実際に使用される回路での信号周波数に近い値で計測することが大切です。


また、コアに巻かれたインダクタの多くは、電流に対して非直線的な挙動を示します。
例えば、インダクタに直流が重畳している場合と、していないときでは、インダクタンス(インピーダンス)の値は異なります。
従って、電源回路などに用いるインダクタでは計測用の交流信号と直流を同時に加えて計測します。
半導体の接合容量なども直流の大きさによって値が大きく変化する代表例ですが、多くは機能する電圧範囲が狭く、しかも非直線的な特性を持ちます。
この場合は、計測に用いる(交流)信号もできるだけ小さくするといった配慮が必要になります。


実際のコンデンサでは、電極やリード線などのインダクタンスや抵抗が直列に接続されている回路と等価であり、共振回路としてのインピーダンス変化が見られます。

水晶やセラミックなど、共振特性を持つ素子では、図1のようにさらに複雑なインピーダンス変化が見られます。
こうした部品や回路では、実際に使用する周波数での計測に加えて、インピーダンスの周波数特性として広い周波数範囲にわたってインピーダンスを計測することも必要になります。

図1:水晶発振子のインピーダンス計測例

インピーダンスの周波数特性を表現する方法としては、図1のように横軸を周波数、縦軸をインピーダンスの絶対値と位相として表現するのが一般的です。
ほかの表現としては、インピーダンスを(A+jB)Ωのように複素数表現し、実軸と虚軸上にプロットする方法があります。(図2)
この表現法は主に低周波数で用いられています。

図2:複素平面でのインピーダンス表現

反対に、マイクロ波などの高周波では、スミスチャート上にプロットする表現が多く用いられます。
スミスチャートは、高周波の回路や伝送路などの設計には必須の表現法です。
独特の形をしたチャートですが、よく見れば、図2の虚軸を弓なりに折り曲げて、円形にしたものであることがわかります。
なお、スミスチャートでは、インピーダンスの代わりに、その逆数である、アドミッタンスで表現することもしばしば行われます。

図3:スミスチャート

部品や回路のインピーダンスを計測する場合は、周波数や信号レベル、直流重畳の量などを実際に使用する条件にできるだけ一致させることが極めて大切であることを繰り返し述べてきました。
ここでは、そのことを強く意識したインピーダンスの計測例を挙げます。

図4は電源回路やバッテリのインピーダンス(出力インピーダンス)を実際に使用される条件で計測するというときの様子を表しています。
電源回路やバッテリは、実際には負荷と接続して使います。
従って、負荷に電流を供給している状態でのインピーダンスを計測しなければなりません。

図4:電源の出力インピーダンスを測りたいが・・

ところが、この場合、負荷を接続した状態で、電源(バッテリ)だけのインピーダンスをどのようにして求めるのか、という点が問題になります。
回路図で言えば、知りたいのは図4のZxなわけですが、同図のように電源の出力端子にインピーダンス計測器を接続したのでは、負荷と電源を並列にした合成インピーダンスが計測されてしまうからです。
その上、電源やバッテリの出力には、直流電圧が出ています。
従って計測器入力の耐圧など、計測すべきはずの電源のために計測器が破損してしまったり計測機能を失ったりすることの無いようにしなければなりません。
コンデンサを使って直流分をカットしたいところですが、計測するインピーダンスが低い上に0.1Hz以下といった超低周波までの計測が必要となるため、それもできません。


このような場合は、インピーダンス計測の基本(インピーダンスの計測と計測器 その1参照)に戻って、電圧と電流をベクトル的に計測してその比からインピーダンスを求めます。
図5にその方法を示しました。

負荷に並列に計測用の交流信号を加えて、それによって生じる電池の端子電圧(Vx)と電流を計測します。
電流は被計測電源に直列に小さな抵抗(Rm)を挿入して電源に流れる電流を電圧(Vm)に変換して取り出します。
その上でVxとVmを周波数特性分析器などに接続し、交流電圧の比を計測することでインピーダンスを求めます。

図5:電源の出力インピーダンス計測

ここでいう周波数特性分析器とは、正弦波のスイープ信号源を内蔵した2チャネルのベクトル電圧計(レベルと位相を計測できる交流電圧計)です。
この場合、信号源も周波数特性分析器の信号源を使います。
なお、図5のRsは信号源を保護すると同時に信号源が電源の負荷として影響しないようにするための電流制限抵抗です。


さらに、大型のバッテリや燃料電池などは出力インピーダンス(電圧÷電流)が極めて小さいので、取り出される電圧(図のVx)は非常に小さな値になります。
従って、高感度なベクトル電圧の計測器とそれに見合う技術が求められます。
また、できるだけ計測電流が大きくなるように信号源の駆動能力を高める工夫も必要になります。
そのため、燃料電池のインピーダンス計測などでは、負荷を交流にも応答する電子負荷装置に置き換えて、電子負荷をベクトル電圧計測器の信号源で駆動することで、図5と同じ機能を実現するといった方法が採られます。


参考:キーサイト・テクノロジー 技術資料
   エヌエフ回路設計ブロック 技術資料

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