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CR回路応答(時間領域編その2)

CR回路応答(時間領域編その2)

電子計測において無意識のうちに構成されるコンデンサと抵抗のシンプルな回路。今回はその時間応答の続編です。


前回(CR回路応答時間領域編その1)は、出力と並列にコンデンサが接続された「積分回路」の動作を見てきました。(図1参照)

今回は、積分回路のコンデンサと抵抗の位置を逆にした場合を考えます。

図1:積分回路

従って、接続は図2のようになります。

このような回路は、意図して作る場合もありますが、意図せずにできあがってしまうことも少なくありません。

図2:CとRの位置を逆にする

たとえば、2台の機器が隣り合っている場合や、ボード上で二つの回路が隣接している場合などは、両者を完全にシールドしない限り、両者の金属部分によって結合コンデンサが形成されます。

このときの静電容量は「寄生容量」とか「浮遊容量」などと呼ばれます。

結合される片側が回路の入力で、もう一方がパルス回路であれば、図2と同じ状態になります。


まず、積分回路の時と同様に、図2のスイッチをオンしたときの過渡現象です。

コンデンサは、あらかじめ放電されていて、電荷は蓄えられていないものとします。

このときの抵抗両端の電圧の時間変化の様子を以下に示します。
前回と同様に、横軸(時間軸)の目盛りは時定数に対する値にしてあります。

図3:CR回路応答1

スイッチをオンした瞬間は、コンデンサはあたかもショートされているように見えるため、電池の電圧がそのまま抵抗に加わります。

時間の経過とともに、コンデンサは徐々に充電され、両端の電圧が上昇します。

コンデンサと抵抗に加わる電圧の和は電池の電圧と同じ(一定)ですから、抵抗両端の電圧は徐々に減少していきます。

変化の形は積分回路と同じで、指数関数のカーブです。(図3参照)

実は、時定数を一つしか持たない回路(Cが一個の回路では一つの時定数)の過渡現象は、必ず指数関数的になります。


次に、デジタル信号を模擬するために、図4のように電源を切り換えます。

すると、奇妙なことが起こります。

図4:電源を切り換える

図5がそのときの応答なのですが、よく見ると、信号がプラス側とマイナス側に振れています。

電源(電池)はプラス方向だけなのに、抵抗両端にはマイナスの出力が現れます。

図5:CR回路応答2

その理由を考えてみましょう。

まず、電池が接続された状態で、コンデンサは図6に示す極性で充電されます。

次に、電池を取り去ってショートすると、コンデンサのプラス側がそれまで電池のマイナス極があった部分とつながります。

従って抵抗両端の電圧は、上がマイナスで下がプラスになるというわけです。

図6:コンデンサへの充電(極性に注目)

ところで、図5の波形は信号源(方形波)のエッジ部分でパルス的に発生しています。
しかもその極性は、エッジの向き(立ち上がり/下がり)と一致しています。

これはすなわち、方形波を微分した波形にほかなりません。

というわけで、今回の回路は、「微分回路」と呼ばれます。


ただし、CRによる微分回路は数学的には完全な微分ではありません。

例えば、方形波の繰り返し時間と時定数を近づけると、その応答は以下のようになります。

方形波の上の平らな部分が傾斜しています。

この波形は「サグ」と呼ばれ、オシロスコープの入力結合をACに設定したときなどに現れます。

図7:微分回路で生じたサグ

図7の横軸の目盛りに注意してください。
入力の方形波の繰り返し時間は、時定数の1/5です。

つまり、微分回路では時定数を繰り返し時間の5倍に設定しても大きなサグを生じます。

CR回路の周波数応答については別項で説明しますが、このことを周波数領域に置き換えると、微分回路の遮断周波数を方形波周波数の約1/30に設定した時に相当します。

30倍も余裕があれば大丈夫だと考えがちですが、実際には大きなサグを生じるので、デジタル信号のような方形波を微分回路を通して計測する場合には注意が必要です。


また、このコーナーの冒頭で説明したように、微分回路は意図せずに寄生的に構成されることが多いことも注意点です。

例えば、2つの回路が隣接していて、片側をデジタル信号が走っていると、もう一方には図5で示すようなスパイク状の信号がノイズとして重畳することになるからです。

結合によるスパイクノイズを減らすためには、微分回路の時定数(抵抗とコンデンサの値の積)を小さくします。

具体的には、ノイズを受ける側の回路のインピーダンスを下げるか、二つの回路で構成される静電容量が小さくなるように、双方の距離を離す、物理的なサイズを小さくする、間にシールド板を入れるなどの対策を施します。




周波数領域編へ続く

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