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ミリ波の性質とその応用(第1回:ミリ波の性質)

ミリ波の性質とその応用(第1回:ミリ波の性質)

ここでは、ミリ波の性質と応用について2回に分けて解説します。第1回はミリ波の生い立ちと基本的な性質について。


電波として最後に残されたフロンティア。それがミリ波の世界です。
自動車衝突防止用のレーダ、地球環境計測、高速無線LANなど、ミリ波は21世紀の重要な技術となるでしょう。

ここでは、ミリ波の性質と応用について2回に分けて解説します。
第1回はミリ波の生い立ちと基本的な性質について。

これまで軍事用レーダなど特殊な用途しか使われなかったミリ波が、今注目されています。

電磁波、つまり電波は人間が作りだした物ではありません。ビッグバン以降自然界に存在しています。その電磁波を人類が発見し、自分たちのために応用できるようになったのは人類の歴史から見てもつい最近のことです。

ちなみに、フランクリンが雷雲に向かって凧をあげたのが1752年。マックスウェルが電磁場の理論を完成し電磁波の存在を予言したのが1864年で、ヘルツがこれを実証したのは1888年。そしてマルコーニが大西洋横断の通信に成功したのは、今から僅か百年前の1901年のことです。


民間における実用的な電波の応用は波長の長い(周波数の低い)ところから始まりました。ラジオ放送(中波)、国際通信(短波)、などです。それがテレビ放送(超短波)でぐっと周波数が高くなります。テレビはその後UHF(極超短波)、そして衛星放送(マイクロ波)へと進んでいます。

同じ周波数に複数の電波があると混信します。また、一般にひとつの電波は周波数に広がりを持ちます。例えば、ひとつの電波が1MHzの広がりを持つとき、100MHzから110MHzの間には10個以上の電波を並べることはできません。電波は有限の資源なのです。

一方で電波を利用するアプリケーションは増加する一方です。携帯電話もカーナビも、天気予報の雲の写真も電波によってもたらされます。限りある電波をいろいろなアプリケーションで使ってきた結果、これまで使われてきた周波数帯は満杯になってきました。

さらに、今後の電波利用アプリケーションは、占有する電波の幅が広いものが多いのです。
そして、周波数が空いているのはこれまで余り使われることの無かった極めて高い周波数の電波、即ちミリ波だけです。
こうした背景から、資源として未開拓なミリ波が俄に注目され出しました。 


では、ミリ波とはどういう電波なのでしょうか。

下の図は、電磁波の周波数と波長という面で捉えたミリ波です。
電波は1秒間に30万km進むので、周波数が300MHzのとき波長は1mになります。
ちなみに、携帯電話やPHSは800MHzから1.9GHzを使っています。

周波数が3GHzを超えて30GHz辺りまで、波長にして10cmから1cmになる周波数帯はマイクロ波と呼ばれ、衛星通信やレーダ、各種の中継回線などに利用されています。

そしてその更に上、波長がミリメートル台の30GHzから300GHzの電波がミリ波です。

これらは、厳密に定義されているわけではない大まかな呼び方なので、周波数が1Hzでも超えたらマイクロ波やミリ波ではなくなるというものではありません。
例えば、家庭用の電子レンジは(3GH以下の)2.4GHzを使いますが、英語では"Microwave oven"です。


では、ミリ波の更に上は? というと、そこはもう遠赤外線の世界、電波と光の境界領域です。
このように、ミリ波は電波としては光に一番近いところにあるので、その性質も光に近くなってきます。

第一に、直進性が強くなります。電波が物の陰に回り込む性質が弱くなると言っても良いでしょう。

第二に、物体に遮られる性質があります。低い周波数の電波では金属以外の物には余り影響されませんが、ミリ波では金属以外の物でも影響を受けます。
しかし、完全な光ではないので、光を通さない物はミリ波も通さないと言うわけではありません。

第三は、分子の振動の影響を受けるようになります。簡単に言うと、水や酸素があると、電波が吸収されてしまいます。

右の図は、大気中におけるミリ波の減衰の大きさを示したものです。
ミリ波はまず、22GHzと183GHzで水蒸気の吸収を受けます。
さらに、60GHz付近には酸素分子の強い吸収帯があります。

電波が吸収されて大きな減衰を受けるということは、電波が遠くへ飛ばなくなることを意味します。
それでは通信に使えなくなるような気がしますが、遠くへ飛ばないと言うことは、遠くの物から混信を受けることがないということでもあり、短距離の通信にはかえって適しています。

第二と第三の性質から、ミリ波は雨や霧などの影響を受け、気象条件によって伝搬状態が大きく変わるのも特長です。

ミリ波の減衰特性

ミリ波は、機器内の信号の接続も通常の電子機器とは異なります。

マイクロ波以上の信号は、通常の銅線や同軸ケーブルでは伝送できなくなります。金属は必ずしも良導体ではなくなるともいえます。

これらの周波数では導波管(Wave guide)と呼ばれるパイプ(通常は角形)が使われます。
パイプを這わせるので、配線ではなく、配管です。

電波を発射するときは管の端をオープンにしてかつ漏斗状にします(ホーンアンテナ)。アンテナとしては導波管に細い切り込みを入れたもの(スロットアンテナ)もあります。

短い距離ではマイクロストリップラインも使われますが、ミリ波では損失が大きくなるため、線路に金属ではなく誘電体を使った誘電体線路が有効です。誘電体線路としては細い誘電体の線を金属板で挟み込んだNRDガイドなどが知られています。


ミリ波に使うデバイスは大きく分けて2種類あります。

ひとつは、真空管の流れを汲むハイパワー素子で、クライストロン管や進行波管が代表的です。これらはマイクロ波で多用されており、技術的にも成熟していますが、ミリ波にはこれらを小さくリサイズして用います。

もう一つは半導体で、こちらはさまざまな研究開発が行われています。
基本になるのはバイポーラトランジスタとFETですが、周波数が高くなると電子の移動度がネックになり通常の物では動作しなくなります。

ミリ波用の素子としては、MES FET(Metal semiconductor FET :金属-半導体FET)やHEMT(High Electron Mobility Transistor :高電子移動度トランジスタ)などが有名です。

 
左の写真は、ミリ波用の増幅器です。
両端にある管状の物が導波管の出入口です。

- 写真は富士通(株)の技術資料による -


こうして、開発が進むミリ波ですが、実は開発が始まったのはむしろほかの波長に先んじています。
初めに手がけたのは、インドのBose(1858~1937)という人で、本来の分光の研究に60GHzのミリ波を使うため、各種のミリ波用コンポーネントを自力で開発し、なんと1895年には1マイル離れたベルを鳴らすというデモンストレーションをやってのけているそうです。

次回「ミリ波の応用」へ続く

参考文献:新ミリ波技術 手代 木扶/米山 努 (オーム社)

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