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OFDMとは

OFDMとは

地上波デジタルテレビ放送や無線LANなどではOFDMと呼ばれる新しい変調方式が採用されます。
OFDMとは何か、少し知っておきましょう。


携帯電話を筆頭に、Bluetoothや無線LANなど、最近のエレクトロニクス・アプリケーションの多くは無線通信の応用です。
テレビ放送もBSデジタルが普及してきました。
これらのうち、無線LANの新規格であるIEEE 802.11aや地上波によるデジタルテレビ放送では、OFDMと呼ばれる方式が採用されています。


今や膨大な数の無線信号が空中を飛び回っていますが、各々の信号は混信してはなりません。
さらに、信号電波として利用できる周波数は限られていて、いわば有限の資源ですから、できるだけ有効に利用しなければなりません。

電波を有効利用するひとつの手段として「多重化」が挙げられます。 多重とはひとつの電波で複数の信号をやりとりする方法のことです。

多重化の代表例として周波数多重(FDM:Frequency Division Multiplexing)があります(図1)。
FDMは、周波数軸上(高周波)に複数の信号(低周波)を並べる方式です。右チャネルと左チャネル(注)の信号がひとつの電波(搬送波:キャリア)に乗って送られるFMステレオラジオ放送も、FDMの一種です。
(注):実際には右+左 と右-左 のマトリクス電送です。

図1:FDMの概念

OFDMは、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)と呼ばれ、原理的にはFDMのひとつと考えられます。
通常のFDMとOFDMとの原理的な違いは、周波数の重ね方にあります。
FDMでは各信号の持つスペクトル(サイドバンド)が重なると混信が発生するので、周波数間隔をある程度離す必要があります。
これに対してOFDMでは、一見するとスペクトルが重なるところまで多重化する各信号の周波数間隔を狭くします(図2)。

図2:OFDMのスペクトラム

周波数間隔を狭くしても互いが干渉しない理由は二つあります。

ひとつは、多重する各信号がデジタル変調信号であることです。
図3にデジタル変調信号(例えばPSK)のスペクトラムを示します。正確には、sin(x)/xの関数で表されます。

周波数軸で周期的にスペクトラムがゼロになることに注目してください。同じようなスペクトラムであればデジタルである必要は無いのですが、現実としてはデジタルしか実現できません。

デジタル変調については、デジタル変調方式の項を参照。

図3:デジタル信号のスペクトラム

周波数間隔を狭くしても互いが干渉しない理由の二つ目は、ほかの信号のスペクトラムがゼロになる周波数点に新たな信号を重ねていることです。
これを数学的に見ると、各信号の関数が直交関係にあることになるため、直交周波数分割多重と呼ばれます。また、デジタル変調しているため、COFDM(Coded OFDM)と表記されることもあります。


OFDMがFDMと異なる点がもう一つあります。
それは多重化する信号の情報そのものに関してです。
FDMで多重する信号は、例えばステレオの右と左あるいは別個の電話回線といったように、各々独立した別の信号を多重化します。複数の情報を同時に送るテクニックということができます。


これに対してOFDMでは、元々はひとつの(デジタル)信号の各ビットが多重化する各信号に割り当てられます。多重といっても送る信号(情報)はひとつである点が通常のFDMとは異なります。
言い換えれば、OFDMはデジタル信号をパラレルに伝送する手段であるということになります。

次はOFDMの実現方法。具体的には、変調と復調の方法についてです。
図4はOFDMの変調器の原理です。

まず、変調信号をパラレルデータにしてI-FFT(逆 高速フーリエ変換)します。
逆フーリエ変換は、周波数領域のデータを時間領域のデータに変換します。

I-FFTに変調信号のデータ(元データ)を入れるということは、1と0で構成される元データ(時系列データ)を、周波数軸上で元データと同じ形でスペクトラムが配置された信号(スペクトラムデータ)と考え、これを時系列に変換する操作であると考えることができます。

図4ではこれをQPSK(Quadrature Phase shift keying)することでCOFDM信号を得ています。

OFDM信号には多重数と同じ数のキャリアが存在しますが、この変調方式なら必要なキャリアはひとつだけで済みます。

OFDMの復調は、変調と逆の手順を踏めばよいので、PSKの復調器とFFTがあればよいことになります。

図4:OFDM変調器

最後に、OFDMのメリットとデメリットを検討しながら、何故OFDMが使われるのかを考えます。

OFDMのメリットとして最も大きいのはフェージングに強いという点です。
フェージングとは、無線通信において信号の強度などが時間的・空間的に大きく変化する現象を言います。そして、信号の周波数がわずかに異なるだけでフェージングの状態は大きく変わります。

OFDMは多重化する数と同じ数のキャリアが広い周波数範囲にわたって分布します。さらに、デジタル信号の各ビットをパラレルに送ることと等価なので、各信号のビットレート(転送速度)は、シリアル転送する場合よりも遥かに遅くすることができ、補完信号を挿入することもできます。
このため、全体としてフェージングの影響を小さくできます。


OFDMではこれに加えて、「ガードインターバル」と言ってデータを時間的に一部重複させて送るテクニックが用いられます。ガードインターバルを設けることで、乱反射などによって受信地点に時間的にズレを持った信号(ゴースト)が到来しても、影響(マルチパス障害)が出ないシステムを実現できます。このことは、マルチパスが発生しやすい地上波デジタルテレビ放送などにOFDMが採用された大きな理由です。


OFDMは、最終的なスペクトラムの形状を自由に制御できます。このことを利用すれば、スペクトラム形状を四角にして周波数の利用効率を高めたり、一部分だけ周波数成分が存在しないキャリアホールを作って別の信号を挿入するなども可能になります。


OFDMのデメリットはというと、非線形要素があると旨くない点が挙げられます。
緻密なスペクトル分布をした信号なので、非線形要素によって新たな周波数成分が発生したりスペクトル分布が変化すると復調に支障を来します。
このことは、送信で使用するパワーアンプに直線性の良いものしか使えないことを意味し、機器のコストアップ要因となります。
更に、波形としては、クレストファクタ(ピーク値と平均値の比率)が大きいので、ダイナミックレンジの広いアンプが必要になる点も設計を難しくします。


参考文献: デジタル放送技術 松尾憲一著(東京電機大学出版局)

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