計測器・測定器玉手箱
電流計測の原理
電流計測の原理
電圧の計測と比べると、電流の計測は少し面倒です。
今回は、電流を計測するための諸々の知識です。
電圧と電流は電気の最も基本的なパラメータです。
周波数や位相など、ほかのパラメータは電圧や電流の変化から求められるものですし、信号の波形を扱う場合も電圧や電流の変化を観測していることにほかなりません。
事実、電気・電子計測のほとんどは、目的とする量を電圧か電流に変換してそれを計測しています。
では、実際の電子計測では、電圧と電流のどちらが多く利用されるかというと、電圧が圧倒的です。
電流よりも電圧の方が扱いやすいから、というのがその理由です。
しかしながら、電流を検出・計測しなければならないことも数多くあります。
例えば、電子機器の消費電力を計測するには、電圧と同時に電流の計測が必要ですし、数あるセンサの中には、出力電流が検出する物理量に比例するタイプのものも少なくありません。
電流が扱いにくい理由の一つに、「計測器を回路に直列に接続しなければならない」ことが挙げられます 。
電圧を計測する場合は、図1のように電圧計(計測器)を回路に並列に当てれば良いので、回路を変更する必要がありません。
これに対して、電流の計測では図2のように電流計を回路に直列に接続する必要があるので、回路を一度切断しなければなりません。
さらに、計測が終われば、切断した個所を接続し直さなければならず、電圧の計測と比べて面倒です。
このため、多くの場合、図3のように予め回路に抵抗を接続しておき、その抵抗両端の電圧降下を計測することで、電流の計測を電圧の計測に置き換えることが広く行われています。
このときの抵抗はシャント抵抗と呼ばれます。
また、大きな電流を感度の高い電流計で計測する場合は、図4のように二つの抵抗を使って電流の通路を二手に分け、その比率と電流計の指示値の積から電流値を算出します。
この方法は、分流器と呼ばれ、テスタ(回路計)などで多用されています。
交流の電流を計測する場合は、トランスを用いることもあります。
これに用いるトランスは、電流トランスと呼ばれます。
電流トランスは一次側と二次側の電流の比率が特定の比率に保たれるように設計された特殊なトランスです。
大きな電流を計測する場合などに大変便利ですが、原理的に二次側(計測器やメータがつながる側)をオープン(何も接続しない状態)にすると、高い電圧が発生しますから接続には注意が必要です。
電流トランスを応用した計測器にクランプ電流計(クランプメータ/クランプテスタ)があります。
クランプ電流計は、本体のレバーを握ると先端部が開き、電流を計測する電線を挟み込むことができるようになっており、電力関連の現場などでよく用いられます。
同様なものに、オシロスコープ用のクランプ式電流プローブ(プローブと計測器の項参照)があります。
クランプ電流計もクランププローブも、電流の計測にも関わらず、回路を切断する必要がないので便利です。
ただし、トランスの応用であることから、周波数依存性があるので、計測に際しては計測できる周波数の範囲を確認することが肝心です。
電流を電圧に変換する方法は、ほかにもあります。
大電流の計測では、ファラディー素子の偏波回転(ファラディー・ローテーション)を利用した方法なども知られていますが、電子計測でよく用いられるのは、ホール素子を利用する方法です。
ホール素子は、電圧と電流と磁界の関係が図7のようになった素子で、磁気センサなどとして多く使われています。
電流を計測する場合は、予め一定の磁界をホール素子に加えておき、計測すべき電流を流したときに発生する電圧を取り出します。
ホール素子は直流でも扱えることが特長です。
ごく小さな電流を計測するときは、電子回路的な手法を用います。
図8は、オペアンプを使って電流を電圧に変換する場合の原理図です。
回路にシャント抵抗を接続する方法ではシャント抵抗が回路に影響を与えるため、抵抗の値は大きくできず、微少電流を計測するには発生する電圧が小さすぎて、実用上は計測困難です。
こうした場合は、図8のようにオペアンプを使えば抵抗(r)の値を大きくすることができるので、極めて小さな電流でも計測することができます。
微少電流の計測は、電子回路の応用が必要となりますが、専用の計測器もピコアンメータなどの名称で市販されています。
注意点として、微少電流の計測では、ノイズや、ケーブル・端子の絶縁なども計測の精度に大きく影響するので、十分な配慮が必要です。