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CR回路応答(周波数領域編その2)
CR回路応答(周波数領域編その2)
コンデンサと抵抗で構成される回路の応答についての最終回です。
前回(CR回路応答周波数領域編 )では、CR1個ずつの回路の周波数特性を調べました。
時間領域(波形)で考えたとき信号を時間積分する「積分回路」は、周波数領域で考えるとローパスフィルタになることも解りました。
では、積分回路とCRの位置が逆になってる微分回路(図1)ではどうなるのかを示したのが図2です。
図2の上側のグラフに示すように、高い周波数は損失無く通過し、低い周波数は通りにくくなるハイパスフィルタの特性になっています。
積分回路とは周波数関係が反対になった周波数特性です。
ちなみに、図2は、コンデンサが1μF、抵抗が1.6kΩのときの特性です。
積分回路と同じく、微分回路でもコンデンサ(C)と抵抗(R)の値と遮断周波数(振幅が-3dBとなる周波数 :fc)の間には
fc=1/2πCRの関係が成立します。
従って図2の例では、100Hzが遮断周波数になっています。
ここまでの説明は、振幅の周波数特性だけに注目してきました。
しかし、周波数特性にはもうひとつ「位相」の特性があります。
そこで、図2の位相周波数特性(赤色の曲線)を見てみましょう。
周波数の高い領域での位相回転はほぼゼロです。
入力と出力の間で位相も振幅も変化しません。
十分に高い周波数では、ただ単に線がつながっているのと同じということです。
周波数が高いほうから低い方へと遮断周波数に近づくに従って、位相が進む方向に変化し始めます。
そして、遮断周波数で45度となり、その後90度に向かって滑らかに変化していきます。
積分回路(ローパスフィルタ)の位相特性は、ハイパスフィルタとは逆の遅れる方向に変化しますが、グラフの形は変わらず、やはり遮断周波数で45度(の遅れ)となります。
また、CR1個ずつの場合、ハイパスでもローパスでも位相の変化が90度を超えることはありません。
ところで、振幅だけ、あるいは位相だけに注目するときは、図2のようなグラフが便利ですが、両者を併せて考える場合は、振幅と位相をひとつのグラフで表現する方が便利に思えます。
そこで、図3のように振幅と位相をベクトルと考えて、極座標上にプロットしてみます。
同図は、振幅が0.7倍(-3dB)で位相が45度となっているので、遮断周波数でのベクトルを示していることになりまます。
周波数を変化させると、このベクトルが動いていき、その軌跡が周波数特性というわけです。
図4の太い実線は、積分回路の軌跡を示したものです。
軌跡は中心が0.5(0度)で半径も0.5の円の下半分を描いています。
ベクトルによる表示法は、周波数の目盛りが無いことが欠点なのですが、これまでの知識から、円の最下部の点が遮断周波数におけるベクトルの位置であることが理解できるでしょう。
図から、長さは(振幅)はルート1/2で、角度は45度になることも分かると思います。
最後は、ベクトル表現の応用です。
図5に緑色で示す「原点を中心とした半円を描く特性を持つ回路を作れ」という問題です。
図5の黄色の円はCR1個で作ることができますので、これを左に0.5シフトさせることができれば実現できそうです。
また、ベクトルをシフトさせるには、図の赤のベクトル(180度の方向で長さ0.5のベクトル)を加えれば良いはずです。
では、図の赤のベクトルは電気的には何を意味するかというと、
利得が0.5(出力の振幅が入力の半分)で、位相が180度回る、つまり位相が反転する回路ということになります。
これらはオペアンプを用いれば簡単に実現できます。
その様子を図6に示しました。
この回路は、原点を中心とした円を描くので、振幅は周波数によらず一定で、位相だけが周波数によって変わるというユニークな特性を持つことになります。
振幅を見る限りでは、全ての周波数の信号を通すので、オールパスフィルタなどとも呼ばれています。
ちなみに、この回路を2段にすると、軌跡が原点を中心とする円(一周する回路)ができます。