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GPSの原理と応用

GPSの原理と応用

カーナビや携帯電話などで使われているGPSとは、どんな仕組みで動いているのでしょうか。


GPSとは、Global Positioning Systemの略で、ひとことで言えば人工衛星を使って地上での位置を正確に求めるシステムです。
元々は米国で軍事目的のために開発されたシステムですが、1993年に民生運用が開始されています。
そして、現在ではカーナビゲーションなどの一般利用のほか、測量など多くの目的で使われています。

地球上において現在位置を正しく知りたいという要求は大昔からあります。
特に大航海時代に船に乗って遠洋に出た場合などには現在位置を正確に知る必要がありました。
このため、星の位置から現在位置を知る「天測」などは、科学ではなく歴史の教科書に登場するくらい昔からあるわけです。
近代においては、いわゆる電波航法として、長波帯(90~110kHz)を使用した双曲線航法であるロランC(Long Range Navigation-C)や、究極のシステムという意味でω(ギリシャ文字の一番最後)が冠されたオメガ航法があります。
オメガ航法も双曲線航法ですが、10kHz~14kHzの超長波(VLF)を使い、世界中を8つの送信所で賄うことができるのを特長としています。

双曲線航法は、

「2カ所からの電波を受信した場合に、その到達時間差が一定となる点は2つの発信点を焦点とする双曲線上のどこかにある。
従って別の組の局からもう一つの双曲線を求めれば、その交点が現在位置である」(図1)

という原理に基づいています。

図1:双曲線航法

GPSの原理はこれと良く似ていますが、後述するように双曲線航法とは少し異なります。
地上の位置を正確に求める方法としてはほかに、VLBI(超長基線干渉計)があります。
VLBIは、数十億光年の彼方にある準星(クエーサー)からの電波を2カ所で受信して相対的な距離を求める技法です。


さて、GPSではまず、地球の周りに正確な時計を搭載した人工衛星を幾つも配置します。

実際には、6つの軌道面に4個ずつ合計24個のGPS衛星(NAVSTAR )が配置されています。

この衛星の仕様は、質量862.6kg、軌道傾斜角(赤道に対する角度)55度で、約2万キロ(20,186.8 km)の高度を持ち、周期は12時間となっています。

つまり、毎日同じ時刻に同じ衛星がやってくるようになっていて、地球上のどの地点からも(見通しの良い場所であれば)常に5ないし6個の衛星が見えます。

図2:GPS衛星の配置イメージ(国土地理院ホームページより)

衛星の位置情報は地上に5カ所ある監視局で厳密に管理されています。
また、衛星にはセシウム(Cs)の原子時計(発振器)が搭載されており、正確な時刻が刻まれています。発振器の周波数は10.23MHzで、クロックはそれを1/10に分周(周期を整数倍すること)して得ています。
もちろん、各衛星の時刻も正確に同期されています。
因みに、各衛星には予備としてセシウム発振器がもう1台、さらにルビジウム(Rb)発振器が2台用意されているほどの念の入れようです。
というのは、時刻こそがGPSの命だからです。


さて、GPS衛星からは1575.42MHz(L1)、1227.60MHz(L2)の2つの周波数で電波が送信されています。
この電波は疑似ランダム符号(Pseudo Random Noise Code)と呼ばれる乱数符号で変調された形をしています。
受信時には乱数表に相当するコードを参照し信号内容を解読します。

そして、そのコードと自分(GPS受信機)の時計から、衛星から電波発射された時刻と自分が受信した時刻との信号の時間差を計測します。(図3)

そして、時間差に電波の伝播速度を掛ければ、衛星から自分までの距離が判明します。
(距離 = 速度×時間)

図3:時間差の計測

衛星からは、軌道の正確な情報が送られてくるので、衛星の現在位置は正確に知ることができます。
従って、衛星からの距離が解れば、(衛星の正確な位置は既知なので)自分は衛星を中心として求めた距離を半径とする球面上のどこかにいることが解ります。

なお、符号列は約1msの間隔で繰り返し送られてきます。
伝播の速度は300,000km/sですから、最大計測距離は、300,000×0.001=300[km]です。
従って、大まか(100km程度の精度)ではありますが、予め自分の位置を知っておく必要があります。

次に、衛星が二つ見え(受信できる)れば、二つの球面が求まり自分の位置は二つの球が交わる円周上の何処かになります。
もし衛星が三つなら、三つの球面が交わる2点のうちの何れか一方であることが解ります。
2点のうち一方は、予測できる位置からかけ離れているので捨て去ることができるでしょうから、原理的には一点が決定されるはずです。
しかしながら、残念なことに実際には計算された答え(三つの面の交点)は2点になりません。
その理由は計測の誤差が大きいためです。
そして誤差の多くは、受信機に搭載された時計の精度にあります

衛星の時計は原子時計ですが、僅か数万円でできあがっている受信機に組み込まれた時計の精度は原子時計に比べてはるかに劣ります。
このため、時間差の計算値に大きな誤差を生じます。
そこで、GPSでは衛星をもう一つ、つまり4つめの衛星を受信します。

これは、「3つの衛星の情報(方程式)からXYZの三つの未知数を求めようとしたときに受信側の時計の誤差分という別の未知数があるために計算ができなかったのを、新たな情報(方程式)を導入することで解決する」
と考えることができます。

4つの衛星を観測することで、GPSでは一点に収束するほぼ正確な位置を求めることができます。(場合によっては、地球を衛星の一つとして計算することも可能)

残された誤差は、衛星からの情報内容に含まれるものと、電波が衛星から受信機に到達するまでの大気の擾乱などによる誤差です。
衛星からの情報については、当初、S/A(Selective Availability)と言って民間利用向けには敢えて誤差を付加する操作が行われていましたが、2000年5月に解除され、現在では誰もが正確な情報を入手できます。

また、衛星からは、電離層による遅延量の補正のためのデータも送られてくるほか、受信側で二つの周波数を受信することで補正することができます。
電離層による電波伝搬遅延量は周波数に反比例することがわかっているためです。


次にGPSの利用について。

これまでに述べたGPSの位置計測法は、一台のGPS受信機だけで独立して位置を求める「単独測位」と呼ばれるものです。
GPSでは計測精度をさらに高めるためにいくつかの方式が考案されています。

何れも基本となる考え方は、計測点とは別の基地局で補正値を計算してそのデータを基に実際の計測値を補正することです。
この補正法は、単独測位に対して「相対測位(D-GPS)」などと呼ばれています。
具体的な補正としては、衛星からの搬送波の位相を求めるなどさまざまです。

単独測位の精度は、10m内外ですが、D-GPSによる補正をすれば最高では1cm程度の精度まで高めることができます。

このため、火山・急傾斜地・送電鉄塔の監視、測量など多方面に応用が広がっています。(図4)

図4:産業技術総合研究所が富士山に設置したGPS観測装置(写真は古野電気(株))

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