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玉手箱

ミリ波の性質とその応用(第2回:ミリ波の応用)

電波として最後に残されたフロンティア。それがミリ波の世界です。
ミリ波は21世紀の重要な技術となるでしょう。
本編は、ミリ波の性質と応用について2回に分けて解説したものの後編で、ミリ波の応用についてです。


ミリ波の大きな特長は、ミリ波が大気中の物質によって吸収される性質を持っていることでした。
ミリ波の応用にはこの性質を巧く利用したものが多くあります。

もう一つ、ミリ波には大きな特長があります。それは電波としてミリ波を考えると、周波数が非常に高く、波長が極めて短いということです。
そして波長が短いということは、ビームの鋭いアンテナをごく小さく作ることができることを意味します。
ミリ波をエネルギーと考えれば、強いエネルギーを一点に集中できるとも言えます。


以下に、ミリ波を利用した主なアプリケーションを並べてみました。
ミリ波の性質を考えながら、表を眺めてみてください。

ミリ波のアプリケーション


ミリ波利用の第一番手は、通信です。

ミリ波は大気の吸収を受けるので遠方まで届きにくいのですが、このことは、ほかからの混信や妨害を受けにくいことも意味します。ビームも鋭く絞れるのでさらに混信を少なくでき、その上小さな電力で電波を飛ばすことができることになります。これは短距離の通信にとっては大きなメリットです。

こうした特長を利用して、例えば、日本では50GHz帯を利用した簡易無線システムの制度が20年近い実績(1983~)をもっています。

ミリ波は周波数が高く、極めて広範囲な周波数が空いているので、ひとつの電波で広い帯域を占有できます。このため、広帯域を必要とする高速のデジタル通信にはうってつけの周波数帯であり、短距離で混信の心配が少ないことも考え合わせると、無線LANなどに最適と言えます。
Bluetoothなどでは今のところ2GHz帯が使われていますが、今後さらに高速な近距離の無線によるデジタルネットワークではミリ波が主役になると言われています。

また、ITS(次世代交通システム)に基づく自動運転のための、クルマと道路、クルマとクルマの間の通信や、列車の通信にもミリ波が使われます。


通信の更なる応用が放送です。
ミリ波では放送や通信のために特にミリ波の衛星通信が利用されます。ビームを鋭く絞ることができるので、軌道上に並んだ衛星間や地上での混信を防ぐことができる一方で、特定の地域に対してはまんべんなく電波を送ることができるからです。

主な衛星の使用周波数を以下に掲げます。

主な衛星の使用周波数
 アップリンク(Hz)ダウンリンク(Hz)
インテルサット6G、14G4G、11G
スーパーバード14G12G
JCSAT14G12G
N-STAR6G、30G4G、20G
インマルサット6G4G、11G


ミリ波の応用として二番手に挙げられるのが、センシング(探査)です。
センシングというより、レーダーといった方が解りやすいかもしれません。細く絞ったミリ波を発射して、その反射から対象となる物体を検出するものです。

現在最も注目されているミリ波レーダーに、ITS自動運転用の車間距離レーダー(60or76GHz帯)があります。


長距離のセンシングとしては、例えば、地球を取り巻くオゾン層の観測など地球環境のリモートセンシング(遠隔計測)が挙げられます。
これは、ミリ波がさまざまな分子の吸収を受ける性質を積極的に利用した技術です。例えば、水蒸気による吸収を利用して大気中の雲の動きや分布を知ることができます。

更に長距離のセンシングとして、電波天文学への応用があります。
これは、星間分子の回転スペクトルがミリ波帯に数多く存在することを利用して、宇宙の成り立ちを探る科学です。
日本では、国立天文台(野辺山)で口径45mのミリ波望遠鏡(=アンテナ)および10m×5基の電波干渉計が良く知られています。


ミリ波は計測の分野にも大きく貢献しています。

例えば、電圧の絶対値を校正するための国家標準にはジョセフソン効果が利用されています。
ジョセフソン効果というのは、物質(ジョセフソン素子)に周波数の高い電磁波を照射するとステップ状の極めて正確な直流電圧が得られる現象です。
日本の電圧標準は、通産省工業技術院電子技術総合研究所(電総研)が供給しています。
実際に照射する周波数は93GHzで、得られる電圧は極めて小さいために、2万個以上の素子が直列接続されています。


ミリ波は同じように周波数および時間の標準にも使われています。
周波数の標準は、物質のエネルギー遷移周波数(固有振動数)が物質毎に確定していて、極めて正確な周波数標準となり得ることを利用しています。
実際の遷移周波数に対応した電気信号を得る手段はいくつかありますが、周波数で述べるなら、セシウム標準器で9GHz帯、ルビジウムは6GHz帯、水素メーザでは1.4GHz帯ということになります。
これらで得られる信号(周波数および時間)は、現在の人類が得られる人工的な物理量の絶対値としては最高の精度を持っており、例えば、大陸間の距離を精密に計測するVLBI(超長基線干渉計)などにも応用されています。


計測に関係したミリ波の応用としては、原子物理学におけるESR(電子スピン共鳴)の計測があります。
ESRは半導体や磁性体、高分子化合物などの物性研究に用いる手法で、物質を強い磁場の中に置いて電磁波を照射したときの電磁波の吸収を計測します。
照射する電磁波は10GHz~100GHz程度のミリ波で、さらに高い周波数が望まれています。なお、磁場の生成には超伝導磁石が用いられることが多くなっています。


ミリ波をエネルギーのビームとして考えた応用もたくさんあります。
ミリ波が物質によって吸収を受けるということは、物質がそのエネルギーを受け取るということです。
もっとシンプルに言い換えるとミリ波で物質を加熱できると言うことです。この際に重要なのは、波長によって吸収されるが異なる、つまり、物質を選択的に加熱できることです。

選択的な加熱の典型は、家庭用の電子レンジで、周波数は2.4GHzが使われ、水分を選択加熱しています。
マイクロ波加熱は家庭用だけでなく工業用途にも応用されています。
工場における加工物の加熱や乾燥、水分調整、殺虫など広い分野で使われています。
また、医療の分野でも殺菌や消毒、生体の局部的な加温などに使われることがあります。


ミリ波のエネルギービームを大規模に利用する例として、赤道上空に巨大な太陽電池を置いて、そこで発電したエネルギーをマイクロ波に変換して地球上に送ろうという計画(宇宙太陽発電衛星)もあります。


最後に、ミリ波ではその周波数範囲が広いことから、応用に際して、周波数帯をアルファベットのバンドで呼ぶことがあります。
このときのバンドと周波数の対応を以下の表に掲げておきます。

バンドの呼び名と周波数
バンドの呼び名周波数(GHz)
L1~2
S2~4
C4~8.2
X8.2~12.4
Ku12.4~18
K18~26.5
Ka26.5~40
Q33~50
U40~60
V50~75
E60~90
W75~110
F90~140
D110~170
G140~220
H170~260
J220~235

参考文献: 新ミリ波技術 手代 木扶/米山 努 (オーム社)
菊水電子工業情報誌(SAWS)

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