計測器・測定器・パソコン等IT機器のレンタル、
リース、中古機器販売、校正受託ならお任せください

玉手箱

計測とフィルタ(その1:フィルタの種類と用語)

電子計測では、特定の信号を選択的に取り出したり、ノイズを排除したりする目的で、フィルタを使います。

フィルタというと、エアコンやクリーナの塵を取り除くフィルタや液晶の色を再現するためのカラーフィルタなどを思い浮かべるかもしれませんが、今回取りあげるのは、電子計測で使う電子回路としてのフィルタです。

エレクトロニクスで使用されるフィルタは、入力された信号を周波数で切り分けて、特定の周波数成分を持つ信号を通したり阻止したりできる便利な道具(電子回路)です。

身の回りにあるさまざまな電子機器の内部にも数多くのフィルタが組み込まれています。


計測においては、主に測定したい信号を測定器に取り込んで解析する前段階でのアナログ信号前処理として多く使われます。

具体的には、特定の信号を減衰させてから計測器に接続することで測定のダイナミックレンジを上げる、あるいは特定の信号を選択的に取り出したりハム雑音などのノイズを排除したりすることで測定のS/N比を向上させる、などを目的としたフィルタの使い方があります。

最近では、パソコンとA/D変換用のボードを組み合わせ、処理をパソコンで済ませるといったことも多くなりましたが、この場合も、A/D変換の前にフィルタを通す必要があります。


電子計測でフィルタが必要となった場合、コイルとコンデンサを組み合わせたりオペアンプやフィルタ専用のICを組み合わせて回路を自作しなければならないこともありますが、計測用にはベンチトップで使える製品(図1)やモジュールなどが市販されています。

図1: 計測用フィルタの一例
写真はエヌエフ回路設計ブロック製

さらに、振動計測用の測定器などでは、あらかじめ入力のモジュールなどにフィルタが組み込まれています。

また、測定器とセンサとの接続部や測定器間の接続点などに存在するLCR(コイル・コンデンサ・抵抗)成分によって、意図しないフィルタが形成されてしまうこともあります。

抵抗とコンデンサ一つずつで構成される最も単純なフィルタ回路の特性については以下参照
CR回路応答(時間領域編) その1 その2
CR回路応答(周波数領域編)その1 その2


フィルタは、機械振動や音響などの低周波からマイクロ波・ミリ波に至る超高周波までエレクトロニクスの全周波数範囲で使われており、その種類もさまざまです。

フィルタを構成する素子で分類すると、LC(コイルとコンデンサ)、オペアンプなどの半導体、水晶やセラミックなど固体の機械振動を利用するものなどに分けられます。

携帯電話など最近の高周波回路で多く使われているSAW(表面弾性波)フィルタなども固体の機械振動の一種と考えることができます。

ただし、機械振動(共振)を利用するフィルタは周波数が固定であることなどから、計測の対象となることはあっても、電子計測のためのアイテムとして用いられることはまれです。


結果として、電子計測では多くの場合、低周波領域では半導体を使った「アクティブフィルタ」が使われ、高周波領域ではLCフィルタ(図2)またはこれらを拡張した分布定数回路を使ったフィルタが多く使われます。

図2:LCフィルタの一例 写真は多摩川電子製

アクティブフィルタは、小型であり、所望する特性を高い再現性で比較的簡単に実現できる、入出力のインピーダンス制限が緩く使いやすい、遮断周波数などを簡単に変えることができるなどの特長があります。

ただし、オペアンプなどの増幅器と負帰還回路を利用するため、あまり高い周波数には使えません。おおよそ100MHzが限界です。


半導体を利用したフィルタとしては他に「スイッチドキャパシタフィルタ:SCF」があります。

SCFはIC化が比較的容易で小型のフィルタを実現できるほか、クロック信号で特性を外部から制御しやすいなどのメリットがあります。

しかしながら、外部クロックを必要とすることやノイズ特性などの面から、計測に応用される例は通常のアナログタイプのアクティブフィルタと比べて少ないようです。


これらに対してLCフィルタは高周波でも使え、電源が要らず便利です。

ですが、入出力ともにインピーダンス整合が必要なことや、遮断周波数を可変することが難しいなど、実験や計測には使いにくい面もあります。

このため、計測用のLCフィルタは、用途や測定の条件ごとに専用のものを用意する例が多くなっています。


なお、近年では入力となるアナログ信号をデジタル符号に変換して、デジタルの演算によってフィルタリングを行う「デジタルフィルタ」も電子機器の内部で数多く用いられるようになりました。

デジタルフィルタは急峻な減衰や直線的な位相特性など、アナログでは不可能な特性も実現できます。

最近の計測の多くは、最終的にはパソコンなどでデータ処理することが多くなったので、データ解析の段階でデジタルフィルタを施し、解析の精度を向上させることもできます。

しかしながら、デジタルフィルタはA/D変換されたデジタル符号に適用する「後処理」の手法であるため、データの解析には有効ですが、A/D変換以前のアナログ信号の「前処理」に使うことはできません。


ここで、フィルタに関連する用語を整理しておきます。

まずは基本機能としての呼び名です。

●低い周波数の信号を通して高い周波数を阻止する場合は「ローパス・フィルタ」

その反対に

●高い周波数の信号を通して低い周波数を阻止するのは「ハイパス・フィルタ」

●特定の周波数範囲だけを通すものは「バンドパス・フィルタ」

であることは今さら説明するまでもないでしょう。

ちなみに、バンドパスの反対は「バンドエリミネーション」フィルタです。

まれにローパスのことをハイカット(ハイパスのことをローカット)と呼ぶ人もいますが、ローパスとハイカットでは意味が異なるという意見も聞かれます。

また、

●「50Hzだけ」といったように特定の周波数を阻止(除去)するフィルタは「ノッチ・フィルタ」とも呼ばれます。

計測においてはローパスフィルタを使う機会が一番多くなりますが、無線通信などの計測ではバンドパスフィルタを使う機会も多いでしょう。


次に、

●信号を通す周波数範囲は 「通過域 (pass band)」

●阻止される周波数範囲は 「遮断域 (stop band)」

と呼ばれ、

●両者の境となる周波数を 「遮断周波数 (cut off frequency)」

といいます。

遮断周波数は度々「Fc」と表記されます。

また、遮断域を「減衰域」と表記しているものもあります。


とはいうものの、現実には、Fcまでは完全に通して(損失その他の影響ゼロ)、それ以降は全く通さない(無限大の減衰)という「理想フィルタ」は存在しません。

通過域内であっても、Fcに近づくと信号はなんらかの影響を受けます。

また、遮断域内であっても、わずかに信号が出力に現れます。

そこで、減衰が始まってから、一定の減衰が得られるまでの周波数範囲を「遷移域」と呼んで遮断域(減衰域)と区別することがあります。
(図3参照)

図3:遷移域

実際のフィルタは通過域から減衰域へさらに遮断域へ、は滑らかに移行するので、どの周波数が境目になるのかハッキリしません。

したがって、遮断周波数は、なんらかの形で別の定義をする必要があります。

一般には、通過域と比べて利得が3dB減衰する周波数をもって遮断周波数と定義されます。

ですが、減衰量が1dBや0.1dBとなる周波数を遮断周波数とする場合や、位相の回転量で定義されているフィルタなどもありますので、フィルタを利用する際には事前に確認する必要があります。


なお、図3の遷移域における通過利得特性グラフの傾きを「減衰傾度」もしくは「ロールオフ」といいます。

減衰傾度はフィルタの「切れ具合」を表すことになります。

減衰傾度は、周波数を2倍にしたときに何dB減衰するか、とういう意味の「 dB/oct 」で表すのが一般的です。

ただし、減衰傾度の周波数を10倍にしたときで表す「dB/dec」が使われることもあります。

この場合、6dB/octが20dB/decに相当します。

なお、特定の周波数で減衰が無限大となるような場合、その周波数は「ヌル(null)」と呼ばれます。

また、フィルタによっては、通過域内で周波数に対して利得が僅かに変動するものがあります。

この変動幅は「通過域リップル」と呼ばれます。

これらの用語をまとめたのが図4です。

なお、図4はローパスフィルタですが、用語はハイパスフィルタにも適用できます。

図4:特性を表す用語

通過域から遷移域・減衰域に至る特性カーブは、フィルタによってさまざまな形があり、それに伴って信号の応答も変わって来ます。

そのため、フィルタの選択には慎重さを要します。
(注:フィルタの特性と選択については、「計測とフィルタ(その2)」で解説します。)

なお、周波数特性全体を見渡したとき、遷移域から遮断域に至る減衰の様子を総称して「スカート特性」として評価することもあります。

無線通信などでは、目的とする信号のレベルに対して妨害となる信号のレベルが遥かに大きいことも多いため、減衰量の大きな周波数領域の信号であっても出力に現れる可能性が高いからです。


バンドパスフィルタでは図5のようにローパスとハイパスを組み合わせたような広帯域のものと、

図6のように単一周波数だけを通すような尖った特性をしているものがあります。

図6のような特性は単峰型と呼ばれたりします。

図5:バンドパスフィルタ(広帯域型)

バンドパスフィルタでは多くの場合「中心周波数(fo))」と「バンド幅(BW)」で表記されます。

バンド幅は通常、利得が3dB減衰する周波数の幅で定義しますが、高周波では-6dBで定義されることもあります。

バンドパスフィルタの切れ具合は、
広帯域型のものは、ハイパスとローパスとして別々に評価します。

-60dBとなるバンド幅をBW2としたときのBWとの比を 「シェイプファクタ」 として表現する場合もあります。(図5参照)

単峰型の場合は「Q」(=Fo/BW)で表すのが一般的です。(図6参照)

図6:バンドパスフィルタ(単峰型)

その2 へ続く

ページトップへ