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相互変調と混変調

相互変調と混変調

携帯電話やテレビ、ラジオなど、電波を受信する機器では、希望する電波だけでなくほかの強力な電波も同時に到来します。このとき、回路に非直線性があると、相互変調や混変調という有害な現象が起こります。


増幅器などの回路に正弦波信号を加えた場合、入力と出力の間に非直線性があると高調波が発生します(直線性と波形ひずみ 低周波編、高周波編参照)。
では、同じ増幅器に二つの信号を同時に加えたら、出力には何が現れるのでしょうか?
実は、二つの信号が加わると各々に対する出力だけでなく、新たな成分が発生します。

増幅器に二つの信号を加えた時の増幅器の応答特性は「2信号特性」と呼ばれます。
高周波においては極めて重要な特性であり、代表的な計測項目です。
なぜなら、携帯電話やテレビ、ラジオなど電波を受信する機器では、希望する電波だけでなくほかの強力な電波も同時に到来することはあたりまえであり、アンテナに近い回路では増幅器に複数の信号が加わることはまれではないからです。

図1:2信号特性

この章では、増幅器に二つの信号が加わったときの増幅器の動作を解析します。
数式で表されている部分がありますが、定性的に捉えることを目標にしています。

いま、tを時間としたとき、増幅器の入力をx(t)、出力をy(t)で表すことにします。
このとき、入出力に非直線性があることを仮定して、出力はtの多項式として式(1)のように近似できます。

次に、この回路に、式(2)で表す信号を加えます。式(2)は周波数の異なる(f1とf2)二つの正弦波を表しています。

このときの出力は、(2)を(1)に代入することで求まります。それが、式(3)です。
しかし、式(3)からはどんな出力が現れるのか分かりません。

そこで、式(3)を展開することになりますが、展開は特に係数が複雑になるので、省略して書いたものが式(4)です。
式(4)は各項にかかる係数を■で表してあります。


では、式(4)の各項を一つずつ見ていきます。

●薄いブルーで示した第1項は、係数だけの項です。時間的に変化しませんので、電気的には出力に直流が含まれることを意味します。二つの正弦波から直流分が生まれることは興味あることです。

●第2項(パープル)は、各々の基本波の出力です。本来の出力でもあります。増幅器完全に直線性を保っているとすれば、この項の係数だけが有限で、ほかはゼロになります。別な見方をすると、この項以外の成分は、全て回路の非直線性によって新たに発生した成分です。

●第3項(ピンク)は、各々の二次高調波成分です。増幅器に単独で信号を加えた時にもこの成分は現れます。

●第4項(オレンジ)の成分は、各々の周波数の和と差の成分です。この成分を利用したのがヘテロダインの周波数変換回路です。第3項と第4項は式(1)の二次の係数部分によって発生します。従って、二次高調波を取り出したり、周波数変換したい場合は、入出力の関係が二次関数で近似できる特性になるように回路常数が決定されます。
これに対して、次の5、6,7項は三次の係数によって発生する成分です。

●第5項(薄いグリーン)は三次の高調波成分です。

●6項と7項は、一方の二次高調波と他方の周波数の和と差の成分であり、その意味では第4項と似ています。


一般に、回路の非直線によって生じる[mf1±nf2]の成分を「相互変調積」と呼びます。

問題は第6項(赤色の部分)です。
今、仮にf1を10MHz、f2を11MHz(下の図では薄い紫)としたとき、第6項を除く項の成分の周波数は10~11MHzとは大きくかけ離れた値になります。
これらは回路上に設けた簡単なフィルタで取り除くことができます。

図2:2つの信号と相互変調積のスペクトラム

ところが、第6項(赤色)の成分の周波数は、(10×2)-11=9MHz と、(11×2)-10=12MHz となり、もとの周波数に近い周波数を持った信号が発生します。
入力する周波数をもっと近づけると、現れる成分(3次混変調積)も近づき、回路の帯域内まで入り込んできてしまいます。
こうなると、もはや取り除くことはできません。
そして、観測者にはあたかも初めからそこに(おかしな)信号が存在していたかのように見え(聞こえ)ます。
それが計測器であれば計測の誤差を生じることになります。
このように、3次の相互変調積は機器やシステムに対して極めて有害な影響を与えます。


ところで、式(4)では係数の表記を省略しました。
実は、この係数の中にも重要な問題が含まれています。
例えば、基本波成分の係数は以下のようになります。

この式の第1項は、元の信号の振幅 A が回路で a 倍されたことを意味しますので、これが本来の振幅値です。
それが、回路の非直線性によって第2項以降のひずみを生じることになります。
特に問題なのは第3項の係数です。第三項にはf1の振幅 (A) だけでなく、もう一方の信号の振幅値 (B) を含んでいます。
このことは、一方の信号の振幅が他方の信号の振幅に影響されることを意味します。他方の信号の振幅が変化すればそれに従ってもう一方の信号の振幅も変化してしまうことを意味します。
この現象は「混変調(ひずみ)」と呼ばれ、通信においては極めて有害です。


いわゆる「混信」のように複数の信号の周波数が重なるのであれば、観測者はその存在を確認できますが、混変調は周波数が重なり合うのではなく、振幅だけが影響されるので、その存在が分かりにくいからです。
例えば、計測器であれば、計測値が何となくフラフラと観測されたり、受信機であれば音がモヤモヤしたりして聞こえます。
相互変調や混変調の原因は回路の非直線性にありますが、一般に機器の非直線性を使用者が補正することは困難です。
しかし、相互変調や混変調のもうひとつの原因は二つ(複数)の信号が同時に加わったことです。
そして、通常では相互変調や混変調の成分はごく僅かですが、非目的信号の振幅(B)が大きいと(Bは2乗で効いてくるので)その影響は急に大きくなります。
従って、高周波機器の利用に際しては目的とする信号のほかに大きな信号が加わることのないように十分な注意が必要です。


参考文献:図解EMC用語 不要電波問題対策協議会 編 (オーム社 出版局)

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