計測器・測定器玉手箱

スタブの形成と信号の分配

スタブの形成と信号の分配

信号の配線が枝分かれした部分のことをスタブと呼びます。
電子計測においては意図しないスタブが形成されて大きな誤差の原因となることがあります。


スタブ(Stub)を辞書で引くと、「短い切れはし・切り株・鉛筆の使い残り・切符の半券」などと出ています。

エレクトロニクスでは、信号の配線(伝送線路)が枝分かれした部分のことをスタブと呼んで、高周波のフィルタやインピーダンス変換(整合)などに応用されています。
なお、スタブの内で分岐した先が開放されているものをオープンスタブ、短絡されているものはショートスタブと呼ばれます。(図1参照)

図1:スタブの形成

一方、一般の電子回路などにおいては意図せずにスタブが形成されてトラブルになることがあります。
仮に、二つの回路を結ぶケーブルの端に別のケーブルをつなぎ、分岐した先は何も接続しないか入力インピーダンスの高い機器を接続したとします。
するとオープンスタブが形成されますが、このとき一体何が起こるでしょうか。
回路を伝わる信号がDCに近い低周波信号である場合には、スタブの有無は全体の動作に何も影響しません。
オープンスタブは2本の線が向き合ったものなので小さなコンデンサとして働きますが、周波数百kHz程度までかつ低インピーダンス回路であれば、大きな影響はないはずです。
ところが、扱う信号が立ち上がりの速い高速デジタル信号や高周波信号になると、スタブの有無、長さ、伝わる速度で回路の動作が大きく変わります。
配線自体も回路の一部として働くようになるからです。


たとえば、図2 で左( 信号源側) からやってきた信号の波はスタブのところで二手に分かれます。そして、スタブに入った信号は先端で反射し分岐点へ戻ってきます。このとき左からは続けて信号がやってきており、右(負荷側)へはそれらが合成された信号が伝わってゆくことになります。
もし、スタブの長さが信号の1/4 波長で先端が開放(オープンスタブ)だとすると、分岐点へ戻ってくる信号は位相反転し、信号源から来る信号を打ち消します。
結果としてその周波数においてはあたかも線路が短絡されているかのように動作します。

図2:スタブと信号の流れ

図3~図6にその様子を示しました。
終端抵抗の両端で方形波信号の立ち上がり部分をとらえたものです。

図3はスタブ無しのときの立ち上がり波形です。

図3:スタブ無し

図4は約2mの同軸ケーブルをつないでオープンスタブにしたときの波形です。
先頭の一段低くなっている部分は信号が分配されている区間、次の高い部分は反射した信号が戻ってきて重なり合っている区間です。
その後は戻ってきた信号が再びスタブに分配され反射という繰り返しが続き、全体が満たされていく様子が見て取れます。

図4:受電端に2mスタブ

図5は同じ線路の周波数特性です。
24MHz付近では打ち消しが働いてバンドエリミネーション(ノッチフィルタ)特性となっていることがわかります。

図5:伝送周波数特性

図6は分岐した同軸の先端を短絡しショートスタブとしたときの波形です。
短絡ですので最終的に出力はゼロになりますが、スタブから信号が戻ってくるまでは短絡による反射が到達しないので信号が見えています。

図6:2mショートスタブ

ちなみに、各波形の横軸は50ns/divで、波形は10ns程度で立ち上がっています。
10nsという立ち上がりは現代のデジタル信号としては速い部類に入りません。
周波数特性が大きく変わった24MHzというのも決して高い周波数とはいえない値です。
2mというケーブル長も珍しい長さではありません。
こうした「ありふれた」信号環境でもスタブの影響は大きいのです。


電子計測では上記のような接続はしない、と思うかもしれません。
しかし、電子回路の配線や機器を結線する際に配線が枝分かれすることは希ではなく、電子計測においても分岐用のコネクタを使って信号を振り分けることがよくあります。
たとえば、被測定物に加える信号を確認したい場合、オシロスコープのプローブを当てる端子が無いときなど図7 のような接続をしがちです。
これは前述の接続と同じであり、立派なスタブを形成しています。
したがって大きな誤差の要因になります。
この場合は、面倒でも高インピーダンス・低入力容量のプローブで検出しなければいけません。

図7:オシロスコープでの波形モニタ

とはいっても、どうしても信号を分配しなければならないこともあります。
プローブでも影響があるような高周波信号のモニタや二つの発振器の出力を合成したい場合などです。
そうした場合は、専用の分配器を使います。(図8参照)

図8:分配器の例(写真はキーサイトテクノロジー製)

このための分配器はパワースプリッタやデバイダなどと呼ばれています。
原理を図9/図10に示しました。
テレビなどの分配にはトランスが使われますが、測定用の分配器は抵抗式です。
分配あるいは合成した際に各ポートから見込んだインピーダンスが50オームとなるよう設計されているので、反射が起こらずスタブの問題を回避できる仕組みになっています。

図9:パワースプリッタ

なお、図で示したようにスプリッタとデバイダは内部構造と使い道が異なります。
出力を二つに分けるのがスプリッタ、二つの出力を合成するのがデバイダです。
ニュアンスが似ているので取り違えないように注意してください。
また、計算すればわかることですが、電力が1/4になる(6dBの挿入損失がある)ことも把握しておく必要があります。

図10:パワーデバイダ

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