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計測に関する知識


計測に関する知識  
A/D変換とアンチエイリアスフィルタ(その1. 標本化と誤差)

A/D変換に際しては、アンチエイリアスフィルタを使って不要な信号を予め除去しておく必要があります。

電子計測では、測定の対象となる信号はアナログである場合の方が多いのですが、測定器内部の処理方式はデジタルであることの方がずっと多くなっています。

例えばアナログ信号をデジタルオシロスコープで測定するのはその典型です。

測定信号をパソコンで直接処理するために、A/D変換ボードを使うといったことも多くなりました。

したがって、測定器やA/D変換ボードなどを使うに当たってはA/D変換器の仕組みやA/D変換する際に生じる様々な誤差などの問題を一通り理解しておく必要があります。
本項では、A/D変換を周波数領域の様子、具体的には信号のスペクトラムとA/D変換の関係を考えていきますが、その前に、A/Dの入り口部分を時間領域(波形で)見ていきます。

図1は正弦波信号をA/D変換する前段階の様子を示しています。

まず、連続信号である正弦波を時間的に飛び飛びの(離散的な)値(図の灰色の線)に置き換えます。

この過程が「標本化 (sampling) 」です。
図1:標本化

次に、標本化された各信号をレベル的にも飛び飛びの値(デジタルコード)に置き換えます。

こちらは、「量子化 (quantization) 」と呼ばれます。

そして、量子化を実行するのが、A/D変換器です。


A/D変換の基礎(その)参照
図2:量子化

標本化と量子化では、標本化が、アナログ信号を時間軸(入力信号の横軸)上で離散化することであるのに対して、量子化はレベル(入力信号の縦軸)上で離散化する行為である点が異なります。
標本化は量子化に先がけて行わなければなりません。

具体的には、図3のようにごく短いパルスで入力信号をスイッチオンしてその瞬間の値を抽出する「サンプリング」と、
抽出した値をその点のA/D変換が完了するまで保持する「ホールド」の機能を持ったサンプル&ホールド回路がA/D変換器の先頭部分に配置されます。

標本化は標本化パルス(サンプリングクロック)を元にして一定の時間間隔で実行されます。

そして、入力信号は標本化によってパルス列に置き換わります。
図3:サンプル アンド ホールド

図4はサンプリングのときの様子を、周波数領域で表現したものです。

fi はA/D変換される正弦波の周波数です。
図4:正弦波のサンプリングとスペクトル

入力信号は正弦波ですから、周波数成分はひとつだけ(単一スペクトル)です。

fs はサンプルする細いパルスの繰り返し周波数です。

細いパルスは、繰り返し周波数を基本波として、たくさんの高調波成分を持ちます。

したがって、図は右側に延々と続くのですが、それらは今回の話題には影響が無いので以後はサンプリングパルスの基本波成分だけを問題にします。
fi が fs でサンプリングされると、新たに fs-fi (差の周波数信号)と fs+fi (和の周波数信号)という成分を生じます。

これは、周波数変換や振幅変調と同じで、二つの信号が掛け合わされる(2信号の乗算)ときに生じるものです。

実は、標本化とは入力信号とサンプリングパルスとの乗算にほかなりません。

なお、fs とfi がどのような周波数関係にあっても和と差の成分を生じます。
標本化された信号は、この後で量子化される段階でも不要成分(量子化誤差)を生じますが、それを別にすれば、A/D変換によって符号化されても図4の情報は保持され、D/A変換によって再び図2の状態に戻すことができます。

そして、図4(図2)の状態に戻すことができれば、ローパスフィルタで fi だけを切り出して元の正弦波を復元できます。

図2を見たとき、これだけの数の(サンプリング)点があれば、元の正弦波が復元できることは、感覚的にも想像がつきます。
次に、信号の周波数とサンプリングクロックの周波数を少しずつ近づけていった場合を考えます。

図5は、fi = 1/2・fs、つまり入力信号の2倍の周期でサンプリングした状態を表しています。

図5:ナイキストサンプリング


ちなみに、fi = 1/2・fs の関係にあるとき、fi は「ナイキスト周波数 (nyquist frequency)」と呼ばれます。

この時、サンプリングは、信号の一周期に対して2回しか行われないことになります。

これだけのサンプル点から元の正弦波を復元することは、少し難しそうですが、できなくもない気もします。

実際、これが復元できる理論限界であり、この限界を理論的に証明したのが、「サンプリング定理」です。
では、このとき(fi = 1/2・fs) の様子を周波数領域で見るとどうでしょうか。

それを同図(図5)の右側に示してあります。

ナイキスト周波数でのサンプリングでは、fiとサンプリングによって生じる fs-fi の成分とが、ちょうど重なり合います。

もし、fi と fs-fi とが僅かでも離れていれば、強力なフィルタによって両者を分離して、fiを復元できますが、両者が重なりあってしまうと、分離できません。

周波数領域で見た場合にも、fi = 1/2・fs (あるいは fs = 2・fi ) が限界であることが解ります。
これ以後は、fs(サンプリング周波数)をナイキスト周波数の限界( 2 fi )から更に下げていった時、言い換えると信号の周波数がナイキスト周波数を上回る時の様子を考えます。

電子機器の設計などにおいては、サンプリング定理を満たす設計が前提ですから、信号がナイキスト周波数を上回るサンプリング状態は、あまり考えられません。

しかしながら、電子計測においては、例えば、デジタルオシロスコープは、サンプリング速度を自由に変えることができるので、測定したい信号に対してナイキスト周波数を下回るサンプリング状態となってしまうことは、よくあるからです。
図6:ナイキスト周波数を下回るサンプリング

図6は、信号の周波数がナイキスト周波数を僅かに超えたときの様子を表しています。

この場合、サンプル点は、信号の周期に対して少しづつずれを生じていきます。

得られたサンプル点を結ぶと、図で太線で示した波形が描けます。

入力信号に似ていますが、振幅が正しくありません。

なお、この状態で太線をもっと右まで描くとどうなるかを右に示しました。
そして、そのときのスペクトラムが図7です。

fs - fi の成分がfi よりも左(周波数が低い側)に来て、両者が隣接しています。

もし、ローパスフィルタでfi以下を切り出せば、二本の近接したスペクトラムが並んだ信号が得られます。
図7:ナイキスト周波数を下回る
サンプリングによるスペクトル

こうなると、ローパスフィルタではfiを取り出すことができない点に注意してください。

信号が周波数が既知の正弦波であればバンドパスフィルタを使って分離できますが、正弦波以外ではスペクトラムに拡がりを持つので分離できません。
なお、図6の右側に示した波形は、近接した二つの周波数成分を持つ信号を合成した場合に現れる特有の波形です。

楽器の調律などで、音のうなりを聞き分けますが、これは、調律する側とされる側の周波数がわずかに異なることでできる図6右のような振幅の山谷を聞いていることになります。

電気では、平衡変調された信号の波形がそうです。

もっと長い時間の現象では海水の朝夕なども同じような変化をします。

(注:二つの振幅が異なる場合は、各山谷の形が少し変わります)
図8はサンプリング周波数をもっと下げて、サンプリング周波数(fs) を信号の周波数(fi)と同じにした場合です。

この場合は、信号とサンプリングが同期して、信号が繰り返す同じ場所をサンプルすることになり、そのサンプル点からは、直流しか現れません。

図8:入力信号と同一周波数でのサンプリング


これは、周波数領域で考えると一目瞭然です。

Fs = fi ならば fs-fi はゼロとなり、周波数がゼロとは即ち直流だからです。(図8右側)
さて、図9はサンプリング周波数がさらに下がって信号の周波数よりも低くなってしまった場合です。

図9:エイリアスの出現


このとき、各サンプル点を結ぶと、これまで無かった信号が現れます。

この信号成分を、「エイリアス (alias)」と呼びます。

観測者にはエイリアスしか見えないので、もし、入力信号が未知だとすると、エイリアスをを入力信号として誤って認識してしまうことになります。

あたかも本来の信号であるかのように見えてしまうところがエイリアスの怖さです。
エイリアスは入力信号よりもずっと低い周波数の信号となって現れます。

その関係を図9の右側に示しました。

fsがfiよりも低いので、fs-fi は負の値になります。

ところが、負の周波数というのは存在せず、実際には fs-fi が原点 ( f = 0 )で折り返した - ( fs-fi ) の周波数にエイリアスが現れます

なお、多くの場合、fi が 1/2 fs を超えることで差の周波数信号 ( fs - fi ) がfi よりも低い側に現れる場合(図7)もエイリアスとして扱われています。

ナイキスト周波数を下回るサンプリングで生じた分離不可能な不要信号成分という意味では同じだからです。
ところで、もし元の信号が正弦波のような繰り返し信号であれば、周波数の折り返しで生じるエイリアスは元の信号と同じ形(波形)をしています。

つまり、エイリアスは元の信号が時間軸(周波数)変換されて出力される現象だと考えることもできます。

このことを利用したのが、サンプリングオシロスコープです。

サンプリングオシロスコープでは、サンプリング定理を満たすサンプル速度が実現できないような極めて高い周波数を持つ信号の観測に用います。

周波数がが高い高速信号に対して、敢えて信号の繰り返し周波数よりも低い周波数でサンプリングしてエイリアスを生じさせることで、低い周波数(ゆっくりとした時間軸)に変換された入力信号の「波形」を観測します。

サンプリングオシロスコープは、元の信号を変換したエイリアスを見ることになるので、観測できるのは、同じ波形を繰り返す信号に限られます。



その2 へ続く






 

 

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